Outside story

2つの『10人の泥棒たち』。

韓国映画において、このように”字幕版”と”日本オリジナル版(吹替)”を同時公開することは珍しいため、「なぜ?」と思われている方も多かったであろう。 時は、2012年11月にさかのぼる。その年、本国にて韓国映画の観客動員記録史上1位を6年ぶりに塗り替えた本作(2013年8月現在)。日本で公開するにあたり、関係者による試写が行われた。 「文句なく面白い!」「観た後爽快!また観たくなる!」「登場人物がみんな魅力的!」「飽きさせない、密に練られたストーリーがいい」「アクションシーンが素晴らしい!」「韓国映画を越えた、超アジア映画だ!」……あらゆる人が、絶賛した。 そんな中、その場にいた誰かが発した言葉に、一同「確かに」とうなずいた。『おい、あのシーンは結局どういう展開だったんだ?』 本作は、脚本も担当した監督チェ・ドンフンが、映画パンフレット付属の“The document of THE THIEVES”※でも語っていたように、長期にわたり練りに練って作られた脚本であり、俳優たちの口から発せられる言葉は途轍もなく膨大。それを“字幕”という限られた空間に押し込もうとすると、本作では言葉のニュアンスは10分の1程度しか表現出来なかった。 例えば、『猟奇的な彼女』から10年経ち、かわいさに大人の色気が加わり、本作では小悪魔的な魅力を振りまいているチョン・ジヒョン。彼女が演じる、イェニコールは話す相手やシーンによって、言葉の使い方や語尾を巧みに変えてストーリーを動かしている。その魅力を“字幕”ではとても表すことはできなかった…。 そこで、オリジナル俳優の声ではなくなってしまうが、俳優たちの精神を受け継いで、“ホンモノ”と言われる吹替版を作ろうではないか。2012年11月から始まった会議で議論されてきたテーマは、2013年2月中旬に開かれた会議で「“吹替版”を制作する」と正式に決定された。眼からでなく、耳からストーリーを理解してもらうことも大切だ。 オリジナルの魅力を損なうことなく、日本人声優の日本語によって“字幕”を超えてこの作品の魅力を伝えることが出来るのか。脚本、声優の人選、幾多の人々の努力によって、日本の“10人の泥棒たち”が結成された。 2013年4月26日から28日の3日間、いよいよ吹替版のアフレコ。そこには、声優業界でプロフェッショナルという称号を与えられた仕事人たちがいた。この3日間で行われたことは、“10人の泥棒たち”に新たな命を吹き込むことであった。そこにいる日本の“10人の泥棒たち”が、マカオ・パクに、ペプシに、イェニコールに、ポパイに、アンドリューに…見えた。そして、彼らに敬意を表して、単なる“吹替版”でなく“日本オリジナル版”という打ち出しで公開していくことに決定した。 韓国映画という枠を超えて、アジア映画を超えた超アジア洋画として、『シュリ』と共に語り継がれていくであろう本作。そこには、韓流特有の「ドロドロとした人間関係」などはなく、あなたに問われるテーマもない。スタイリッシュな娯楽映画。それが『10人の泥棒たち』。 いわゆるネタバレになるので、ここではこれ以上書くことはやめよう。チェ・ドンフン監督が創り出した“10人の泥棒たち”に心から拍手を送りたい。本作を見終わったあなたは、すべての意味を分かってくれることであろう。 そして、“字幕版”“日本オリジナル版<吹替>”共に同じディスクに収録されているので、両方を観聴きしてみて欲しい。『10人の泥棒たち』は、まだまだ終わらないことを実感して頂くことが出来るだろう。

※“The document of THE THIEVES”=韓国でテレビ放映された、『10人の泥棒たち』のメイキング映像。映画パンフレット特典。 メイキングシーンはもちろんのこと、スタントをほぼ使っていないアクションシーンの裏側、監督や俳優陣たちのインタビューなどが満載。(韓国制作/日本語字幕/80分)